写真都市

Yasushi Ito Portfolio Page

2020-01-04 「ここではないどこか」へ(2019年2月執筆)

2019年2月5日をもって第6回「群青 gunsei」が終了し、その中の前期日程において、
私は「Somewhere Not Here ここではないどこか」として約5年ぶりの個展を行った。
大きなグループ展の中で一室を使ったという形式なので、果たして「個展」と呼べるかは判断が難しいが、
とにかく全25点の作品を統一したテーマでまとめたのは久しぶりで、
また自分一人ではなかなか踏み出せない状況にもあったので非常に貴重な機会を頂くことになった。
そして、多数のご来場ありがとうございました。
全員とまではいかないけれど、作品についてお話ができることは最大の生きがいでもある。
そのテーマの説明になっているかははなはだ怪しいところだが、ここに展示冒頭に掲げたキャプションのテキストを引用したい。
(以下引用)
2008~2009 栃木・福島を転々とする
2009~2011 東京 都内のほか近県にも出かける
2011~現在 札幌に戻る
 
いつもは暮らしている「ここ」を撮るばかりで、
あまり旅に出ることのない僕が時折「どこか」へ出かけた時の記録たち。
どこからが「旅」なのかを定義するのは難しいけれど、
ここにある写真たちは当時住んでいた街の、すぐ隣から遠い土地まで様々。
 
もちろん違う土地へ行けば、物珍しさであちこち歩き回るけど、
考えていることや撮り方のようなものは結局変わらない。
そんなことを再確認するだけでも、たまには(身近な場所でも)旅に出て、
「どこか」で撮ったものたちを見返すことを続けたいと思う。
(引用ここまで)

 

今回の展示について、大体昨年夏頃から構想を考え始めたが、
いくつかやってみたいテーマの一つとして、ここ10年ほどで訪れた土地の写真をまとめてみたいというものがあった。
私は写真を撮る人間にしては旅行の経験が少ないと思っていて(もっとも周囲に旅好きの人間が多いせいかもしれない)、
どうしても自分が暮らす場所を細かく歩いて、写真を撮っていきたい、
というより北海道弁で言うところの「撮らさる(≒撮れてしまう)」ということがあるが、
それでも時折、ふとどこかに出かけたくなったり、あるいは1週間くらい全く違う土地に旅をしたくなることがある。
それが普段暮らす「ここ」と「どこか」の対比、あるいは日常と非日常の対比といってもいいかもしれない。
しかし、その境目は非常に曖昧で例えば隣町でもそれは旅になるし、
もっといえば普段暮らす街へも常に旅をしているともいえるが、
一応今回は居住地以外に出かけたものと定義することにした。

 

そしてこれまで東京や札幌で撮ったものが中心だったので、
そこから漏れてしまったものをまとめておきたいということもあった。
前回の「群青」では10年前、2007年頃の札幌で撮ったものを中心にしたが、
今回はその後の大学卒業後の2008年頃から昨年までを射程としている。
主な訪問地は、福島県、新潟県、千葉県、広島県、沖縄県など、
また小樽など道内の地方都市も多く、選外になったものも含めると意外と遠出もしていたのかもしれない。

 

撮り方についてもこの10年ほどで微妙に変化を続けていて、
近年に近づくほど「記録性」を意識したような撮り方になっているように感じる。
もっとも全ての写真は撮ったその時点で記録以外の何物でもないとも思っているが。
そしてこうした記録達をセレクトして1点ずつ額装して「作品」とし、
またその表現手法についても思うことが色々とあるので、
根本的な矛盾を感じないわけではないけれど、
その辺のことはもはや「癖」のようなものだと今のところは乱暴に片付ける他ない。

 

今回の展示についても「北海道美術ネット別館」にてレビュー記事を書いて頂いた(いつもありがとうございます)。
ここに自分の意図のようなものは殆ど書いていただいているが、
「ただ、淡々と、熱くも冷たくもならずに、都市風景への愛着をひそかに抱きながら」
ということに結局は言い尽くされるのではということを考えている。
たとえば今後撮り歩く頻度や対象が変わったとしても、そういう部分は変わらないだろうし、
日常と非日常、「ここ」と「どこか」を行き来することは続くのだろうと思う。

 

以上のことも既にキャプション文に書いてあることだが、
こうした自分の興味や考え方のようなことを再確認するだけでも、
遠近を問わず旅は続けたいし、撮り続けていきたいと思う。

 

そして最後に今後の予定についてだが、当面は展示の予定は無し。
いつもそう言って結局すぐ展示してきただろという指摘を受けそうだが、
最近は他にすることが多くて本当に展示が難しくなると予想している
(それでもごく小規模の参加はあるかもと一応予防線を張っておく)。

 

また取り組んでみたいテーマがあったり、日常的な撮影も充実させたいというのはあるので、
この先2~3年くらいははそちらに注力したいということがある。
展示だけにこだわらず今回制作した冊子のように、
より多くの方に見ていただけるよう別な形式での発表も考えているので、

そういう意味での「旅」も続けていきたいと思う。

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